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賞与と資金繰り——「利益が出ているのに払えない」を防ぐために
はじめに
「今期は利益が出た。だから賞与を出したい」
そう思って計算してみたら、口座の残高が心許ない——そんな経験をしたことはないでしょうか。
賞与の支払いは、まとまった現金が一度に出ていく一大イベントです。利益と現金は必ずしも一致しないため、決算書が黒字でも手元資金が足りなくなることは、決して珍しいことではありません。
この記事では、賞与を「利益」だけで考えることのリスクと、資金繰りを意識した設計のポイントをお伝えします。
なぜ「利益があるのに資金不足」が起きるのか
売上や利益は発生主義で計上されますが、現金の動きは別です。売掛金の回収タイミング、仕入れや経費の支払い時期、借入の返済スケジュール——こうした要因が重なると、損益計算書は黒字でも、実際の現金残高は思ったより少ないことがあります。
賞与の支払いは年に1〜2回、短期間に集中して発生します。その時期に現金が手薄であれば、支払いが遅れたり、やむなく金融機関への借り入れに頼ったりするケースも出てきます。
このような事態を防ぐには、賞与の設計段階から、月次の資金の動きを念頭に置くことが大切です。
資金繰りを意識した賞与設計の考え方
支給形態を見直す
一括一時金での支給は、資金に対するインパクトが大きくなります。選択肢として以下のような方法があります。
固定賞与と業績連動賞与の組み合わせ あらかじめ支給額が見込める固定部分と、業績に応じて変動する部分に分けることで、支払い総額の見通しが立てやすくなります。業績が厳しい時期には自然と調整できる仕組みでもあります。
月給への一部組み込み 賞与の一部を毎月の給与に分散して支給する方法です。従業員にとっては収入の見通しが立ちやすく、会社にとっては資金流出が平準化されるため、双方にとってメリットがあります。
支給時期の分散 夏と冬の年2回という形に縛られず、事業の繁閑に合わせて支給時期を工夫することで、キャッシュフローへの集中的な負荷を分散できます。
資金シミュレーションを事前に行う
賞与を決定する前に、「支払い後の資金残高がどうなるか」をシミュレーションしておくことが重要です。
具体的には、
- 賞与支払月の月初・月末の資金残高見込み
- その月に重なる他の大きな支出(社会保険料・税金・仕入れなど)
- 万が一、回収が遅れた場合のバッファ
これらを事前に確認しておくだけで、「支払えないかもしれない」という事態をかなりの確率で防ぐことができます。
就業規則・給与規定の整備
賞与の支給基準や対象者、算定方法が就業規則に明確に定められていないと、トラブルの原因になります。
「どういう条件で支給されるのか」「業績が悪化した場合はどうなるのか」「在籍期間によって変わるのか」——こうした点があいまいなままだと、従業員の不信感につながったり、退職時の精算で揉めたりすることがあります。
賞与制度を変更するときは、従業員への丁寧な説明と、就業規則への明文化がセットで必要です。変更の理由と背景をしっかり伝えることで、制度変更に対する理解が得られやすくなります。
税務・社会保険の扱いを確認する
賞与は、所得税の計算方法が月給とは異なります。また社会保険料も、賞与額に対して別途計算されるため、従業員の手取り額が変動します。
会社側にとっても、社会保険料の事業主負担分は賞与額に連動して変わります。支給額を確定する前に、社会保険料を含めた実際のコストを試算しておくことが大切です。
正確な計算と申告については、給与ソフトの設定確認や、税理士・社労士との連携が安心です。
資金が厳しい局面では
「今期は業績が振るわなかった。でも従業員への気持ちはあるし、まったく出さないのも……」というケースもあるかと思います。
そのような局面では、
- 業績連動賞与のルールを就業規則に明記しておくことで、業績に応じた支給調整が合理的に行えます
- 支給時期を分割し、一度に出る金額を抑える方法も考えられます
- 利用できる助成金・補助金がないか確認することも、資金負担を減らす選択肢のひとつです
- 金融機関との日頃のコミュニケーションを大切にしておくと、資金が不足しそうな時期に相談しやすくなります
いずれにしても、「支払えなくなってから考える」では間に合わないことが多いです。余裕のある時期から、資金計画の一部として賞与を組み込んでおくことが何より重要です。
制度の安定が、従業員の安心につながる
賞与支給が遅延したり、突然大幅に減額されたりすると、従業員の会社に対する信頼は大きく揺らぎます。
逆に、業績が厳しい時期でも事前に状況を説明し、ルールに基づいた対応をとることができれば、従業員の理解は得やすくなります。賞与の額だけでなく、「会社の考え方が見える」ことがモチベーションの維持につながります。
安定した賞与支給は、人材の定着や採用力にも影響します。資金繰りの視点から賞与を設計することは、従業員への誠実な姿勢でもあると言えます。
まとめ
賞与を設計するうえで押さえておきたいポイントをまとめます。
- 利益だけでなく、月次の資金残高を確認したうえで支給計画を立てる
- 固定部分と業績連動部分の組み合わせや、月給への分散など、柔軟な支給形態を検討する
- 支給前に、社会保険料・税金を含めた実際のコストを試算する
- 就業規則・給与規定に支給基準を明確に定め、従業員に丁寧に説明する
- 資金が手薄になりそうな時期は、金融機関や助成金の活用も視野に入れる
賞与は「従業員へのメッセージ」でもあります。制度をしっかり設計し、資金計画と連動させることで、会社と従業員の双方にとって安心できる仕組みが整っていきます。
現在の賞与制度や資金繰りに不安を感じていれば、まずは自社の現状を整理するところから始めてみてください。

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